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『ケロケロきょうだい』(こどものとも年中版2021年4月号)
『ケロケロきょうだい』参上!
子どものころ、よく野原で遊びました。走りまわっていると、草むらからいつもあらわれたのがアマガエル。仲良くなりたくて捕まえようとすると、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ととびはねて逃げてしまいます。運よく手のひらにおさめて、つぶさないように、指のすきまから中を覗くと、カエルもわたしを見つめています。一瞬、心が通じあったような気がするのですが、カエルは、いつも、ぴょーんと、すきをついてはね、忍者のように消えてしまうのでした。そんな意のままにならないカエルが好きでした。そんなカエルを主人公に物語を作りたいと思いました。考えているうちに思い出したのは夏のプールの記憶です。
夏休みになると、公園にある公営のプールのオープンが楽しみでした。なぜなら、そこでは自由に水で遊べたからです。水は冷んやりとしていて気持ち良く、水の中では自分の身体の重さを忘れて動くことができました。とびこむこと(当時は可)、もぐること、およぐこと、ぷかぷかうくことが楽しく、水しぶきやプールの底から透けて見える太陽の光がキラキラと綺麗で、生きていることへの賛歌のように私には感じられました。休憩時間に水面を見つめてぼーとしている時間も日射しの温かさを感じるほっとするひとときでした。
春に目覚めたカエルも、プールを待ち焦がれていた当時の私のように、水にとびこむことを切望しているのではないか。とびこむこと、もぐること、はねること、およぐこと、うかぶこと、うたうことは、カエルだけでなく人間にとっても生きる喜びになりえます。
その喜びがこの絵本を手にする子どもたちに伝わりますように!
(「絵本のたのしみ4月号」 作者のことばに掲載)
こぼれ話1
舞台のモデルになった場所はイギリスの南西部の海辺にあるシドマスという街。10年ほど前に縁あって訪れ、美しく明るく爽やかでのんびりとした風景に心奪われました。描くのなら日本にこだわらず好きな街でいいのでは?という編集者さんの声に背中を押され描きました。2019年にイギリスへ旅するチャンスがあり再び取材。その時は海岸沿いにちょっと足をのばし南の方へも。その時に化石がたくさん落ちている海岸を見つけました。それがかの宮沢賢治が北上川を「イギリスあたりの白亜の海岸を歩いているような気がする」といって「イギリス海岸」と名づけた本家本元のイギリス海岸だと知ったのは帰国後のことです。好きな街を描くというのは思っていた以上に幸せなことに繋がっていました。
こぼれ話2
7匹のカエルには実は実在する人間のモデルがいます。コロナ禍においてポジティブでひょうきんで純粋な彼らにはずいぶん励まされました。青いカエルは黄色の色素を持っていない突然変異体です。この青いカエルは大きなことをするわけではありませんが、いつも列の最後にいて問いかけます。「いけについたら なにをする?」と。